20年以上も前の話ですが、クリスマス前に僕がアホなことをやって、右の大腿骨を骨折して入院しました。お袋は寒い中を毎日のように見舞いにきて、それが無理に繋がったのでしょう、肺炎を起こして同じ病院に入院することになったのです。
お袋の部屋に行くと、丁度回診の時間でした。まだしばらく入院が必要だという話があって先生たちは次の部屋に行ったのですが、しばらくしたら院長先生が僕とお袋の元へ戻ってこられました。院長先生はお袋が肺がんではないかと考えていて、そんな中でこんな話が出ました。
「料理人は肉でも魚でも切るときにまな板使うよね、医者は手術の時にあちこち切るけどまな板って無いんだよ。柔らかいもの切るから下に硬い土台があったほうが切りやすいでしょ、じゃあ、まな板はどうする?僕らはね、これをまな板にするんだよ。」
そう言って院長先生は左手の人差し指を僕の目の前に出しました。
「自分の指をね、まな板にするんだよ。もし、手袋と一緒に自分の指を切ったら…、手術している患者さんがエイズとかC型肝炎とか、血液で感染る病気だったら自分もそうなっちゃうかもしれない。でもね、目の前にいる患者さんを助けられたら医者として本望だ。」
本当の医者ってそういうものだと認識したものです。この話をしてくれた村田先生はご自身が僕に仰ったことをお忘れかもしれない。しかし、その言葉は僕の中にずっとあって、僕も同じように「目の前の患者さんを少しでも楽にしてあげるんだ!」という気持ちでいつも仕事をしています。